迅速なサービスリリースと業務効率化を実現するローコード開発の特長と活用
なぜローコード開発ツールが注目されているか?
Low Code Application Platform (LCAP)が急速に世界的なトレンドになろうとしている。LCAPはローコード開発とも呼ばれている。これまでWeb ApplicatioonやMobile Applicationを開発するにはSoftware Engineerによる何千行ものコーディングが必要だったが、LCAPはコーディング無しに画面部品、データベース接続、ワークフローなどをドラッグ&ドロップと設定だけでアプリケーションを開発できる。LCAPと類似する技術は昔からある考え方だが、なぜ今LCAPが注目さているのだろうか。まずはその背景を探ってみようと思う。
第一に既存システムの改善・自動化には限界がある。最近は経理サービス、経費サービス等SaaSを利用する企業が増えている。SaaSサービスはすぐに使えるというメリットがある一方でカスタマイズできる範囲が狭いというデメリットがある。そのためSaaSでは対応できない周辺業務がエクセルなどで取り残されてしまう。これを放置しておくと属人性の高い業務がブラックボックス化されてしまい、事業継続性のリスクが生じる。またこうしたエクセルで行われている業務をRobotic Process Automation (RPA)で自動化する方法もあるが、業務のブラックボックス化を自動化するのと同じである。こうした既存システムの改善・自動化の限界に対応する手段としてLCAPが注目されている。
第二に新規システム・サービスの短期立ち上げの必要性が求められている。企業はこれまで新規システム・サービスに長い時間と多額の費用を投資が必要な大規模プロジェクトとして取り組んできた。しかし市場と顧客の変化が著しい今日において大規模システム開発手法のやり方ではリスクが高まってしまう。そのためアジャイルなどの開発手法だけでなく、新規システム・サービスを短期に開発・運用するプロセス全体を支える開発ツールが求められている。
第三にユーザー部門とIT部門の役割が変わろうとしている。従来システム開発はIT部門の役割とされてきた。ユーザー部門はそうしたIT部門での中央集約的な開発を待たねばならず、タイムリーに自分たちの業務を改善する仕組みを導入することができなかった。こうした中米国のAmazonではユーザー部門が独自に開発するツールとしてHoneyCodeというLCAPを導入し、ユーザー主導での在庫管理システムなどを短期に開発している。業務のことに最も精通しているユーザー自身が開発することでプロジェクトのコストを最小化する効果も期待できるだろう。
どんなローコード開発ツールがあるの?
こうした背景の中で注目されているLCAPにはどんなツールがあるのか。非常に多くのツールがあるが、ここではその中でも代表的な2つのツールについて見ていこうと思う。まずはLCAPの代表格であるOutsystemsだ。Outsystemsは2001年に設立されており、Web /Mobile Applicationを超高速に開発するためのLCAPを提供している。SAP、Salesforce、NetSuite、Azure、AWSなどシステム連携用のコネクターが300ほどありデータ連携を簡単に実装できる。また、開発だけでなく、品質保証、展開、監視、管理といったアプリケーションのライフサイクル全体をサポートしていることも最近のツールの特徴と言える。費用は月額4000ドルからと割高だが、多数のアプリ開発を行う大企業にとってはROIが出やすいツールだろう。
次にアメリカ市場で注目されているRetoolについて見てきたい。Retoolは2017年に設立されたが、2020年10月に企業の評価額が10億ドルに達したユニコーン企業だ。こうした点からも市場の注目度が伺える。Retoolは多数のデータベース、APIと接続することが可能で、接続したデータを画面上に表示するコンポーネントの配置と設定でUIを開発、データソースへの更新はクエリーで行う仕組みになっている。クラウド上で開発、品質保証、デプロイなど一連のDevOpsができるため、リモートワークを前提としたシステム開発プロジェクトにフィットするツールと言える。費用もOutsystemsと比べると安価で月額10ドル/ユーザーとなっている。まずは小さくLCAPを試してみたいという企業に向いていると言える。
どう使えばうまくいくの?
ではこうしたLCAPツールを企業はどんなユースケースに適用しているだろうか。例えば米国のAXA(保険業最大手)ではブローカー向けのポータルシステムの超高速立ち上げに活用した。AXAでは3000人以上のブローカーが顧客の保険請求処理・変更・確認のためにレスポンスの悪いコールセンターに依存しているという課題があった。これを解決するためにLCAPを活用し3か月でブローカーポータルの立ち上げを行いブローカーとその顧客の満足度を高めた。開発期間は従来のシステム開発と比較して50%短縮、コールセンターへのコール数を劇的に削減するという効果も出た。
次に冒頭の背景やユースケースを踏まえてLCAPプロジェクトを成功させるポイントについて考えていきたい。
第一に仮説検証に使うという点だ。仮説検証と言ってもシステムにだけ着目したPoC(Proof of Concept)ではなく、システムの上で動くオペレーションの適合性、オペレーションの結果として生じるビジネスの成果を含む意味での仮説検証である。先のAXAの事例はその典型である。最初は小さい規模で仮説検証を行い、そこからシステムと利用するブローカーを拡充して最終的に年間26万件の請求処理を行うまでスケールアップした。
第二に要件定義、データベース設計がアプリケーションの品質に直結する点だ。LCAPは魔法のツールではない。従来のシステム開発とどうように設計作業が必要になる。その中でも要件定義とデータベース設計は中核となる。どのような業務をシステムで実現したいか、それを実現するために必要なデータをどこから集めて、どのように管理するかが決まっていなければ、良いアプリケーションにはなりえない。
第三にユーザー部門とIT部門の役割をLCAPに合わせて変える点だ。LCAPによりユーザー部門がシステム開発を主導できるようになる。ではIT部門が要らなくなるというとそうではない。要件定義ではIT部門がガイドラインを作ってどんなアプリケーションはユーザー部門で開発して良いか社内のルールを策定し、レビューする役割が生じる。開発ではユーザー部門にはノウハウが少ないデータベース接続・API接続を開発する役割をIT部門が担うだろう。運用ではユーザー部門が開発したアプリケーションのライフサイクルを管理しなければいけない。
ISIDのアプローチ
ここまでLCAPの背景、ツール、活用方法について触れてきた。最後にこうしたツールを導入する際の弊社のアプローチを紹介したい。一言で言えば計画・実施・体制づくりまで全面サポートするのが弊社のアプローチだ。
計画ステップではDX(デジタルトランスフォーメーション)計画を作る。対象業務を分析しどのプロセスにどのツールを適用するのが良いか実行計画を作る。最初からLCAPで開発すると決め込むのではなく、LCAPもオートメーションを実現するツールの一つと考え、それ以外のRPA、iPaaS、BI、AIなど多様なオートメーションツールを使い分ける必要がある。
実施ステップではLCAPで実際にアプリケーションを開発する。ローコード開発とはいえツールの使い方とベストプラクティスを知る必要がある。LCAPアプリの見本として業務で使うアプリケーションを開発代行する。実際に使ってみることで効果や実践方法を短期間で体感することが狙いだ。
最後のステップで内製化するための体制を作る。LCAPアプリを開発・運用を内製化するために、LCAPの開発・運用のトレーニングを提供する。学習効果を高めるためチームメンバーにOJTを行い、開発・運用を自社で行えるよう支援する。
どのテクノロジーにも共通することだが、テクノロジーだけでビジネスが変わる訳ではない。テクノロジーをビジネス変革のドライバーにするには経営サイドのビジョン、リードする人材の育成、定着させるための組織文化の形成が必要だ。LCAPについてもそのテクノロジーだけに注目するのではなく、それに関わるビジネス全体の観点でしっかりと活用方法を検討していきたい。