アメリカで人気の個人間送金アプリ3選

近藤 全代

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「普段、現金を持ち歩いてますか?」- こう問われれば、ほとんどの日本人はYesと答えるのではないか。2016年の日本におけるキャッシュレス決済率はわずか20%だった。他方、同じ時期のアメリカ、ヨーロッパ、中国でのキャッシュレス決済率は40-60%である。日本における現金決済は依然として主流であり、他国に比べるとキャッシュレス決済の普及は遅れている状況だ。キャッシュレス決済の方法は、デビットカード、クレジットカード、オンラインバンキング、モバイル決済など様々だが、このブログでは特にミレニアル世代で急速に普及しているピアツーピア決済(P2Pペイメント)に焦点を絞ってサービスを紹介したい。

そもそも、P2Pペイメントとは何だろうか?それは、個人間のマネーの電子的なやり取り(個人間送金)のことである。アメリカでは、フィンテック企業の台頭やP2Pペイメント技術を事業基盤に取り込む動きにより、P2Pペイメントが主流になってきている。このブログでは、いくつかの主要なP2Pペイメントアプリ及びそれらを実際に使用してみたユーザー視点の印象を紹介したい。これらの検証は、将来の日本におけるフィンテック市場の展望や、未来の消費者の金融行動を占う上で有益な示唆を提供できると考えている。


【目次】

  1. P2Pペイメントアプリ3選

  2. 3つのアプリの比較表

  3. 各アプリの特徴的機能

  4. どのアプリを選ぶべきか?

  5. 今後の展望


P2Pペイメントアプリ3選

米国には多くのP2Pペイメントアプリがあるが、この記事では、Venmo、Cash App、Zelleの3つのアプリに焦点を当てる。これらのアプリは主にP2Pペイメントに特化しており、かつ現状は米国のみで利用可能である。

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Venmo

Venmoはペイパル傘下の、もっとも人気のあるP2Pペイメントアプリの一つである。このアプリを使えば、少しのタップとスワイプ操作で友人や家族への送金が可能だ。Venmoはスマートフォン向けに特化したモバイルファーストのユーザー体験を提供しており、ユニークな機能としてソーシャルネットワーキングの要素も有している。Vennmoのリンクされた銀行口座かやデビッドカード、またはVenmoアプリ内の残高から送金する場合は手数料はかからない。友達同士の送金に加えて、Venmoは多くのレストランやカフェでの決済にも使うことができる。

Cash App

Cash Appはスクエア社によって開発され、ユーザー間の送金を可能にするアプリだ。個人・企業はクレジットカード、デビットカードによって、手数料なしで決済ができる。Cash Appのユニークな特徴としては、Cash App内で株や仮想通貨に投資ができる機能がある。

Zelle

Zelleは、100以上の銀行やクレジットユニオンと提携している、もっとも早く成長しているP2Pペイメイトアプリの一つである。Zelleは、手数料なし、インスタントに当座預金口座間の資金移動を可能にする。銀行口座間で資金をやりとりできる、他のP2Pアプリとは一線を画する革命的なシステムである。

サービスの提供形態は2パターン有り、スマートフォンにダウンロード可能なスタンドアローンのアプリ形式と、バンクオブアメリカ、チェース、シティ、ウェルズファーゴなど主要銀行のモバイルバンキングアプリ内に統合されている形式がある。


3つのアプリの比較表

各社の特徴を表形式に可視化し紹介する。

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各アプリの特徴的機能

サービスについて理解するための最善の方法は、実際にそれを使ってみることだ。ここでは、アプリを使うことにより気が付いたいくつかの特徴的機能を紹介する。 

Venmo

  1. 夕食を割り勘したり、誕生日のギフトを送ったり、単に挨拶したり、など友達との思い出を記録しておけるSNS機能

  2. Venmo Rewardsは顧客へ、NetFlixやChipotle(注:米国のメキシコ料理チェーン)など特定のパートナーでの購買に対し直接リワードを提供するプログラムである。リワードは決済に使われることもできるし、銀行口座やデビットカードに現金として返金されることも可能だ。

  3. Uberと提携しており、時々、「Venmoで決済すれば5回分の移動50%オフ」などの新しいプロモーションを打ち出している。

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Cash App

  1. 新規ユーザーを招待すると、特典として5ドルを貰える。ユーザー招待に対しキャッシュバック機能を備えているP2PペイメントアプリはCash Appのみ。

  2. キャッシュカード(Cash Appのdebit Card)を作成し、アカウント内のお金をを利用しアプリ外での買い物や支払い活用可能。キャッシュブースト機能を利用すると特定の店舗やカテゴリにおいて割引を受けられる。有名なブーストは、コーヒーショップでの1ドル割引や、トレーダージョーズ(注:米国のスーパーマーケットチェーン)やホールフーズでの10%のキャッシュバック、Chipotleやシェイクシャックでの15%割引などである。

  3. 株やビットコインに投資するのに、使いやすいユーザーエクスペリエンスを提供する。

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Zelle

  1. オンラインバンキングの仕組みを持たない中小銀行も、Zelleアプリを通じてオンラインペイメントサービスを展開できるようになった。Zelleは、オンラインバンキングシステムをこれまで持つことのなかった銀行に対し、利便性や競争力を提供していると言える。一例として、BB&T銀行のユーザーはZelleの独立アプリ内で銀行間送受金が可能になった。

  2. 大規模な銀行は既に自社オンラインバンキングシステムを展開していることが多い。これらの既存システムを持つ大規模銀行には、Zelleは決済機能をそれぞれのバンキングアプリに提供する。(例:シティバンク:下図参照)

  3. Zelleは堅牢なセキュリティを持つ。ログイン後しばらく操作がないと、自動的にユーザーをアカウントからロックアウトし、再度ログインするためのパスワード入力を要求する。

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どのアプリを選ぶべきか?

概して、これらのアプリはそれぞれ独自の特徴がり、目的や決済パートナーや場面に応じて使い分けるのが便利である。しかしながら、アプリ選びに際して、ユーザーが特に評価するべきは以下3ポイントである。

ユーザー数

アプリのユーザー数は ユーザビリティ直接的な影響を与える。なぜなら、ユーザが多ければ多いほど、友人やビジネスパートナーと共にアプリを使う機会も増えるからである。

  • Venmo:      40万ユーザー

  • Cash App:  15万ユーザー

  • Zelle:           31.5 万ユーザー

アプリの特徴

それぞれのアプリは独自の機能やユーザーエクスペリエンスを提供している。個人のニーズやライフスタイルに合わせてアプリを選ぶと良いだろう。 

  • Venmo: 豊富なユーザ基盤を背景に、資金決済に特化している。

  • Cash App: 資金決済に加えて、アプリの口座内の資金を用いて投資を行うこともできる。このアプリの統合されたプラットフォームによって、幅広い領域の金融活動が可能だ。

  • Zelle: 銀行口座間で即座に資金決済が可能であり、資金の受け手はすぐに現金の引き落としが可能だ。また、銀行口座を介した取引なので、よりセキュアな取引と言える。

決済の手数料と上限金額

手数料は、選定の際に最も重きをおくポイントとなる人もいるのではないか。これらのアプリを利用する際には、慎重に手数料と上限金額をチェックすべきである。

  • Venmo: 

    • 手数料:通常の決済には手数料はかからない。但し、クレジットカードを用いた場合は3%の手数料がかかる。

    • 1週間あたりの取引の上限金額は2,999.99ドルである。

  • Cash App

    • 手数料:クレジットカードを使う場合でも手数料はかからない。

    • 上限金額:送金は週あたり250ドルまで、受取は月あたり1000ドルまでである。

  • Zelle

    • 手数料:どの銀行口座でも原則手数料はかからない。

    • 上限金額:銀行やクレジットユニオンの提供条件による。


今後の展望

eMarketerというリサーチファームによれば、2020年のアメリカのモバイル決済総額は3965億ドル(2019年の3010億円から27.9%の増加)まで成長すると見込まれている。加えて、2020年の終わりまでには、P2P決済を利用する消費者は、7380万人に到達する見込みだ。ここで見て来たように、この領域では、VenmoとZelleが現状市場の大宗をしめる2大サービスである。しかしながら、CashAppのような、付加価値の高い機能を有するアプリも成長しており、市場の様相を変化させるかもしれない。この傾向は日本の市場を含むフィンテック市場全体に影響するため、我々はこれからもこの成長市場をウォッチしていきたい。

ISIDアメリカは、システムインテグレーションサービスの提供に加え、アメリカにおける市場トレンドの調査も行なっている。我々のミッションは、米国での最新の技術動向を把握し、日本企業の成長支援に貢献することである。


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